エッセイ「新春ランニング」


日陰に残っていた雪も溶けてしまえば、年明けの寒波も喉元を過ぎてしまったような冬の萩です。小さな目標を立ててランニングを再開した私も、手袋をしている以外は晩秋と変わらぬ服装で外に飛び出しました。当たり前のことですが、寒中といっても毎日が寒い訳ではありません。
初めのうちは国道191号に沿う歩道を走ります。いつも思うのは、車道は一定の幅が確保されるのに、歩道は付け足しのように広くなったり狭くなったりすること。そして一段高く作られた歩道になると、交差点では低くなり、車が乗り入れる場所には傾斜がつき、実にデコボコであることです。些細な段差や傾斜でも足首を捻りやしないかと気を遣いますから、シルバーカー(手押し車)を扱うのも一苦労だろうと思います。
狭い歩道には庭木の枝が飛び出していることも。いつものように避けなくてはと思いながら目をやると、ロウバイの花が咲いていました。毎日車で通っていたのに、いつの間にこんなに開いたのだろうか、黄色の花に頬が緩みました。狭い歩道にはみ出しても、花が咲いていたら許してしまうとは呑気なものです。
さて、ランニングのロングコースは、越ケ浜駅前を出発して、松陰神社前・萩駅前・玉江駅前、そして菊ヶ浜を眺めて越ケ浜駅前に戻ります。おそらく距離は17㎞弱で、大抵1時間40分程で帰ってきます。萩三角州の外周なのでほとんど平坦、城下町の町並みというよりは、海や川の景色が楽しいコースです。
阿武川の流れが二つに分かれた松本川と橋本川は、河口付近ということで、潮の満ち干で水位が変わるほど緩やかな流れです。それが冬になると、北西方向からの強い季節風が吹き渡り、ちょうど河口から上流に向かって吹くことから波が遡上する、つまり風で起きた波が川上に向かって揺れ動いていくのです。
ランニングをしている時は思考もリラックスしていますから、『斎藤茂吉の「最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも」だ。いやいやあれは内陸だし、これを逆白波と言ったら〝けしからん!〟と一喝されてしまうだろう。』などと独りごちて笑ってしまいました。
対岸の広場にサッカーをする子供たちがいたり、川面に鴨や鵜など水鳥がいたり、夏みかんがたわわに実っているのを目にするなど、走っていると季節ごとの景色をより味わえるものです。
ところで、私のようにキョロキョロ見ながら走っているのは珍しいのか、時々すれ違うランナーたちは目つきが異なるような気がします。目が合えば挨拶もしやすいのですが、周囲を遮断しているような人にもよく合います。
私のランニングは小旅行のようなもの。何か新しいものと出会ったり、変化に気づいたりする楽しみがあるから続けられるのかもしれません。額から頬に汗が伝い、足に程よい疲労が生じる、そんな小さな旅を繰り返しています。